WinCE デバイスのリモート操作~その1(1/2)OS の部分アップデート方策~その1(1/2)

WinCE デバイスのリモート操作~その2(2/2)

2012/01/04 koga

前回のエントリで、WinCE/WEC の「リモートディスプレイアプリケーション」のソースディレクトリについて述べました。
 %_WINCEROOT%/PUBLIC/COMMON/OAK/DRIVERS/CERDISP/
の配下には、前回のエントリで紹介した CERDisp と CERHost の他に、CERDRV というソースディレクトリがあるのです。今回は、前回触れなかった CERDRV について紹介します。

■CERDRV の組み込み
%_WINCEROOT%/PUBLIC/COMMON/OAK/DRIVERS/CERDISP/ の下にある CERDRV ディレクトリには、ddi_cer という、仮想フレームバッファ機能を提供するディスプレイドライバのソースファイルが収録されています。より正確には、CERDRV ディレクトリは、ddi_cer_lib.lib という static library のソースディレクトリであって、
 %_WINCEROOT%/PUBLIC/COMMON/CESYSGEN/makefile
に記述された設定によって、ddi_cer.dll が生成されます。%_WINCEROOT%/PUBLIC/COMMON/ 配下のソースのビルドについては、2011/08/14 のエントリも、ご覧になってみて下さい。

ddi_cer を OS イメージに組み込むには、BSP_DISPLAY_CER という環境変数を設定して下さい。このことは、
 %_WINCEROOT%/PUBLIC/COMMON/OAK/FILES/common.bib
に書かれています。common.bib の、CE_MODULES_DISPLAY に対する条件記述は、以下のようになっています。


; @CESYSGEN IF CE_MODULES_DISPLAY
; @CESYSGEN IF CE_MODULES_MULTIMON
   multimon.dll         $(_FLATRELEASEDIR)\multimon.dll        NK   SHK
; @CESYSGEN ENDIF CE_MODULES_MULTIMON

IF BSP_NODISPLAY !
;
; MGDI Display drivers
;
;       To use driver           set this env var
;
;       ddi_flat.dll            BSP_DISPLAY_FLAT
;       ddi_3dr.dll             BSP_DISPLAY_SMI3DR
;       ddi_ragexl.dll          BSP_DISPLAY_RAGEXL
;       ddi_cer.dll             BSP_DISPLAY_CER
;       ddi_nop.dll             BSP_DISPLAY_NOP

IF BSP_DISPLAY_NOP
   ddi_nop.dll          $(_FLATRELEASEDIR)\ddi_nop.dll               NK  SHK
ENDIF BSP_DISPLAY_NOP
IF BSP_DISPLAY_CER
   ddi_cer.dll          $(_FLATRELEASEDIR)\ddi_cer.dll               NK  SHK
ENDIF BSP_DISPLAY_CER
…(途中略)

ENDIF BSP_NODISPLAY !
; @CESYSGEN ENDIF CE_MODULES_DISPLAY

最後の方にある、IF BSP_DISPLAY_CER と ENDIF BSP_DISPLAY_CER で囲われた行を見て下さい。

また、
 %_WINCEROOT%/PUBLIC/COMMON/OAK/FILES/common.reg
には、以下の行があります。


IF BSP_DISPLAY_CER
[HKEY_LOCAL_MACHINE\System\GDI\Drivers]
    "Display"="ddi_cer.dll"
ENDIF

Platform Builder で環境変数 BSP_DISPLAY_CER を設定することにより、common.bib と common.reg の上記個所が有効になり、ddi_cer.dll が OS イメージに組み込まれる、というわけです。

なお、お使いの BSP にディスプレイドライバが付属している場合には、BSP 付属のディスプレイドライバを無効にして下さい。BSP 付属のディスプレイドライバを無効にする方法ですが、platform.reg の中に、レジストリキー [HKEY_LOCAL_MACHINE\System\GDI\Drivers] に対する設定行があれば、ddi_cer.dll を組み込む時は、その行をコメントアウトしたうえで、環境変数 BSP_DISPLAY_CER を設定して OS イメージをビルドして下さい。

ここで、platform.reg は、BSP 固有のレジストリ設定を記述するファイルであり、
 %_WINCEROOT%/PLATFORM/<BSP 名>/FILES/
に配置されています。

■WinCE/WEC のディスプレイドライバ
ddi_cer について、「仮想フレームバッファ機能を提供するディスプレイドライバ」と書きましたが、これについて、もう少しだけ詳しく書きます。

まず、WinCE/WEC のディスプレイドライバの考え方については、WinCE 6.0 のリファレンスの、以下のページが参考になります:

 Display Driver Development Concepts
 http://msdn.microsoft.com/en-US/library/ee485877(v=WinEmbedded.60).aspx

WEC 7 のリファレンスのディスプレイドライバの章には、このページに相当する、考え方(concept)を説明したページは無いようです:

 Display Drivers (Windows Embedded Compact 7)
 http://msdn.microsoft.com/en-us/library/gg159569.aspx

WinCE 6.0 と WEC 7 では、ディスプレイドライバのアーキテクチャは変わっていません。ディスプレイドライバの役割は、おおざっぱにいえば、GWES の描画エンジン機能が生成したレンダリング結果を、フレームバッファ上で合成・蓄積し、ディスプレイへ出力することです。そして、仮想フレームバッファ機能というのは、RAM 上にフレームバッファ領域を割り当て、「GWES の描画エンジン機能が生成したレンダリング結果を、フレームバッファ上で合成・蓄積」するだけの機能のことです。

Linux の場合、同様の仮想フレームバッファ機能として、X Window System の Xvfb (X virtual framebuffer) や、Linux framebuffer (fbdev) があるようです:

 Xvfb
 http://en.wikipedia.org/wiki/Xvfb

 Linux framebuffer
 http://en.wikipedia.org/wiki/Linux_framebuffer

さて、ddi_cer による仮想フレームバッファ機能と、前回紹介した「リモートディスプレイアプリケーション」(CERDisp と CERHost)を組み合わせれば、ディスプレイを持たない「ヘッドレス」のデバイスで、GUI 画面によるリモート操作を行うことが可能です。ディスプレイ付きのデバイスの場合は、CERDisp と CERHost により、デバイスに接続されたディスプレイと PC のディスプレイの両方に、WinCE の画面が表示されます。これに対し、ヘッドレスのデバイスの場合(または、ディスプレイ付きのデバイスのディスプレイドライバを無効にして、ddi_cer を組み込んだ場合)は、PC のディスプレイにだけ WinCE の画面が表示される、というわけです。

x86 ベースのボード/デバイスを除く、組み込み機器用プロセッサを用いたデバイスの場合、フレームバッファ領域は、専用の VRAM ではなく、RAM 上に確保するのが一般的です。従って、それらのデバイスについて考えると、実は、ddi_cer と通常のディスプレイドライバの違いは、フレームバッファの内容をディスプレイへ出力するかどうかだけなのです。

ただし、ddi_cer には、CERDisp と同じ機能も実装されていますので、フレームバッファ内容をリモート表示するディスプレイドライバ、という見方もできます。WinCE 6.0 のリファレンスでは、ddi_cer は “Windows Embedded CE remote graphics adapter.” と説明されています:
 http://msdn.microsoft.com/en-us/library/ee482180(v=winembedded.60).aspx (Common Windows Embedded CE Modules)

ddi_cer に実装されている CERDisp 相当の機能は、レジストリ設定でオフにすることができます。ddi_cer のレジストリ項目については、
 %_WINCEROOT%/PUBLIC/COMMON/OAK/DRIVERS/CERDISP/CERDRV/
に入っている cerdrv.reg を見て下さい。cerdrv.reg には、二つのレジストリキーが記述されています。[HKEY_LOCAL_MACHINE\System\GDI\Drivers] と [HKEY_LOCAL_MACHINE\Drivers\Display\DDI_CER] です。このうち、[HKEY_LOCAL_MACHINE\System\GDI\Drivers] の方は、上述した common.reg に記述されているものと同じです。cerdrv.reg の内容は、ビルド時に OS イメージに反映されませんので、[HKEY_LOCAL_MACHINE\Drivers\Display\DDI_CER] キーの内容については、platform.reg か project.reg にコピーするのがよいでしょう。

ddi_cer の、CERDisp 相当の機能をオフにするには、[HKEY_LOCAL_MACHINE\Drivers\Display\DDI_CER] キーの NoServer サブキーを 1 に設定して下さい。ddi_cer は、NoServer の値が 1 に設定されていると、CERDisp と同様の動作を行うサーバースレッドを始動せず、仮想フレームバッファ動作のみを行います。デフォルトでは、ddi_cer の CERDisp 相当の機能が有効なので、CERDisp を実行せず、PC 上で CERHost を実行するだけで接続することができます。NoServer を 1 に設定した場合は、CERDisp も実行する必要があります。

ddi_cer の CERDsip 相当の機能と CERDisp との主な違いは、次の通りです:

 ・ddi_cer は、ディスプレイドライバとしてフレームバッファを自分が持っているため、画面内容をクライアントへ転送する際は、フレームバッファを直接アクセスする。
  CERDisp は、BitBlt() を使って画面内容をキャプチャしたのち、キャプチャした内容をクライアントへ転送する。

 ・ddi_cer は、カーネルモードドライバなので、TCP/IP 通信処理は、CERDisp の場合とは異なり、カーネルモジュール用の WinSock DLL がロードされる。

ここで、ddi_cer と CERDisp は、WinSock ライブラリとして、どちらも winsock.lib をリンクしています。従って、CERDisp に対しては、winsock.dll がロードされ、ddi_cer に対しては、k.winsock.dll がロードされます。カーネルモジュール用の DLL については、2008/07/22 に書いたエントリ(「カーネルからWinSock」)も、ご覧になってみて下さい。

なお、2007/07/22 のエントリでは、WinSock の DLL は、ws2.dll と k.ws2.dll だと書いており、ddi_cer と CERDisp がロードする DLL とは違っています。実は、winsock.dll(および k.winsock.dll)の方は、古い版の WinSock で、ws2.dll は、WinCE .NET 4.2 から導入された新しい版です。真相は分かりませんが、ddi_cer が k.winsock.dll を使うようになっているのは、2007/07/22 のエントリに書いた、k.ws2.dll に関する制限を回避するためなのかも知れません。
(あるいは、単に、ddi_cer も CERDsip も、WinCE .NET 4.2 より前から付属していて、[k.]ws2.dll を使うように改訂されていない、ということなのかも知れませんが。)

■通常のディスプレイドライバとの比較

興味のある人は、ddi_cer と、WinCE 6.0 のデバイスエミュレータのディスプレイドライバのソースを読み比べてみると、面白いんじゃないかと思います。WinCE 6.0 のデバイスエミュレータは、Samsung の S3C2410 という、ARM9 コアのプロセッサのリファレンスボードをエミュレーションしています。S3C2410 は、LCD コントローラを内蔵していますので、デバイスエミュレータのディスプレイドライバは、S3C2410 の LCD コントローラを制御する処理が実装されています。このドライバのソースコードを収録したディレクトリは、
 %_WINCEROOT%/PLATFORM/DEVICEEMULATOR/SRC/DRIVERS/DISPLAY/LCD
です。また、S3C2410 のデータシートは、
 http://www.alldatasheet.com/view.jsp?Searchword=s3c2410
などからダウンロードできます。

ddi_cer と、WinCE 6.0 のデバイスエミュレータのディスプレイドライバの大きな違いは、次の通りです:

・ddi_cer は、フレームバッファ領域を確保する際、C++ の new 演算子を使って確保する。従って、連続した物理メモリ領域は、確保しない。
 (※より正確には、GPE ライブラリの GPESurf クラスのインスタンスを生成し、GPESurf のコンストラクタによってバッファを確保します。)
 デバイスエミュレータのディスプレイドライバは、config.bib の設定により、フレームバッファとして予約した領域を使用する。

・ddi_cer は、ディスプレイデバイスを制御しない。GWES の描画エンジン機能が生成したレンダリング結果を、フレームバッファ上で合成・蓄積するのみ。ただし、レジストリ設定で NoServer が 0 に設定されているか、または何も設定されていない場合は、クライアントに対してフレームバッファ内容を定期的に転送し、「リモートディスプレイ」動作を行う。
 デバイスエミュレータのディスプレイドライバは、プロセッサ(S3C2410)の LCD コントローラのレジスタを、カーネル仮想アドレス空間にマップして、必要な制御動作を行う。LCD コントローラの制御動作の一部として、フレームバッファの物理アドレスを、DMA 転送対象領域として LCD コントローラに設定する。

つまり、異なるのは、ディスプレイ出力用のコントローラ(プロセッサ内蔵の LCD コントローラなど)を制御するかどうか、および、フレームバッファ領域として、連続した物理メモリ領域を確保するかどうかです。ディスプレイ出力用のコントローラを制御する、通常のディスプレイドライバの場合には、フレームバッファ全体を一括して DMA 転送できるように、フレームバッファを、連続した物理メモリ領域に確保する必要があります。

なお、デバイスエミュレータのディスプレイドライバでは、フレームバッファの物理アドレスを LCD コントローラに設定する処理は、行っていません。この処理は、OAL の初期化処理として、以下のソースファイルで実装されています:
 %_WINCEROOT%/PLATFORM/DEVICEEMULATOR/src/oal/oallib/init.c

init.c の中にある、OEMInit() から呼び出される InitDisplay() で、LCD コントローラの初期化を行い、その際に、フレームバッファの物理アドレスを設定しています。

LCD コントローラの初期化動作を OAL で行う実装になっているのは、カーネル起動時にスタートアップスクリーンを表示するためのようです。ここで、LCD コントローラに設定するフレームバッファのアドレスは、物理アドレスですが、ディスプレイドライバがフレームバッファ領域としてアクセスするアドレスは、カーネル仮想アドレスであることに注意して下さい。RAM の同じ領域であっても、ハードウェア(LCD コントローラ)は、物理アドレスでしかアクセスできず、逆に、カーネルモジュールは、物理アドレスをカーネル仮想アドレス空間にマップしたカーネル仮想アドレスでしかアクセスできません。

余談になりますが、連続した物理メモリ領域をフレームバッファに割り当てる際に、必ずしも config.bib で予約する必要は、ありません。AllocPhysMem() を使って動的に割り当てて使用することも可能です。ただし、AllocPhysMem() では、割り当て先の物理アドレスを指定できないので、ブートローダや OAL がスタートアップスクリーンを表示する際に使う領域と同じ領域を割り当てることが、できません。従って、フレームバッファとして使用する領域のサイズを、仕様として固定してしまえるのであれば、config.bib の設定で割り当てる方が、どちらかといえば簡単になるでしょう。

Entry Filed under: OS のコンフィグレーション, カーネルモジュールの実装, 付属機能の使い方

1 Comment Add your own

  • 1. Jahlin  |  1月 14th, 2012 at 18:48

    Perfcet answer! That really gets to the heart of it!

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